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骨再生の実際:岸上義弘
(岸上獣医科病院、京都大学再生医科学研究所 再生医学応用研究部門 臓器再建応用分野)


はじめに

 前々号、前号と、2回にわたって、再生医療の総論について述べてきた。今号から各論に入り、いろいろな組織や臓器の再生について、獣医科領域において実際にどういう形で応用されているのかを紹介する。今号はとくに骨折のあと、骨組織が癒合不全の状態になった際の、骨の再生による治療法について述べていく。犬や猫の交通事故は、絶対数としては減少する傾向にあるが、マンションからの落下などによって、粉砕骨折や開放骨折は相対的に割合が増加しており、その対処法によっては癒合不全を起こすことがある。超小型犬の橈尺骨骨折も依然として減少する傾向にはない。これらの症例に対し、癒合不全とならないよう新鮮な状態での骨折を初回手術で確実に治療することが最も重要である。しかしながら、万一癒合不全が起こったときに、どう対処するかも重要なことであろう。かつては、あまりの惨状に目を覆いたくなるような骨吸収像が認められれば、「断脚」という手段を選んだ時代もあった。しかし今、骨組織の再生が可能となってきており、患者のQOLは格段に改善されている。


骨癒合に必要な要素

骨折後のその骨癒合の成否は、次のような要素が揃っているかどうかに掛かっている。幹細胞、サイトカイン、足場、血行、整復、安定、これら6点である。
幹細胞はあらゆる細胞に分化する前の未分化の段階の細胞であり、自己分裂増殖という能力と、特定の機能を持つ細胞へと分化する能力を持っている。幹細胞は主に骨髄内に存在し、末梢血中にも有る。そして必要に応じて局所にも出現する。もしも幹細胞が骨折部になければ、骨細胞はできない。サイトカインは細胞が出す一種の蛋白であり、幹細胞を組織損傷修復のための細胞に分化・増殖させたり、免疫を助けたりする。もしもサイトカインがなければ、幹細胞は増殖できないし、骨細胞にも分化できない。足場は細胞が住むための場であり、これがなければ細胞は生着と増殖ができない。血行は細胞を招き入れたり、細胞のための栄養を運ぶ仕組みであり、やはり組織修復のためには必須である。もし血行がなければ、細胞が組織に入り込めないし、細胞そのものが生きていけない。整復は骨が歪んで癒合しないよう骨形状を原型に復することである。もしも大きく歪んだまま癒合すると機能回復が望めない。安定とは骨折部の近位と遠位を動揺しないよう保持することである。もしも良好な固定がなければ、骨折部での毛細血管が断裂し瘢痕組織ができ、骨組織が入り込めない領域が生まれる。
このように骨折部が治癒するためには、これらすべての要素が揃っていなければならず、どれか1つが欠けても組織修復は困難となる。以上の6要素のうち、初めの4つ、つまり幹細胞・サイトカイン・足場・血行は生物学的要素(biological factors)と呼ばれ、残りの2つ、整復・安定が機械的要素(mechanical factors)と呼ばれている。これらの要素全てが、新鮮骨折であれ、癒合不全骨折であれ、治癒するために必要であることを肝に銘じておかなければならない。

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