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末梢神経と脊髄の再生医療:岸上義弘
(岸上獣医科病院、京都大学再生医科学研究所 再生医学応用研究部門 臓器再建応用分野)


末梢神経の再生

 末梢神経の損傷は、交通事故や落下事故または咬傷、そして糖尿病による神経壊死などの結果として散見される。ヒトでは工場の機械による切断が多いと聞く。神経の損傷は麻痺を生じる。その支配領域の知覚が失われたり、運動障害が起きることから、QOLは大幅に低下する。
 そして神経損傷の結果として起こるもうひとつのやっかいなことに神経腫がある。末梢神経を切断した際に、ただ断端を寄せて吻合するという手技を選択すると、神経腫(Neuroma)による持続的な痛みに襲われることがある。これは動物に限らず、人においても同じことである。とは言え、従来の方法としては、断端を寄せて吻合するしかないのだが・・・・
 神経腫とは・・・神経が切断された後、うまく癒合しなかったときに断端部にできる塊である。私見であるが、これは骨折時の偽関節に似ている。骨折したときに癒合できず象の足のような偽関節を形成することがあり、これと似た病変であると考えている。つまり、いろんなサイトカインや細胞が組織修復のために躍起になるが、物理的化学的生物学的な悪条件のために正しく経路をつなぐことができず、大きな塊状物を形成してしまう。しかもそこは痛みを発生することが多い。
 これは神経を切断するとできることがあるので、手術の際にメスで切った場合にも起こり得る。また散歩の途中で、ガラスの破片で指のパッドを切ったという場合にも起こり得る。パッドの傷が治ったのにもかかわらず、いつまでも犬がその足を痛がるというのは、神経腫が原因かもしれない。断端神経腫は神経を切ってから1ヶ月から長い場合は2?3年後にしこりができ、何もしなくても痛い(自発痛)場合もあるが、たいていは断端神経腫の存在する部位を押さえると激痛が走るということが多い。

これまでの各種治療法は、1,断端神経腫を切除し、代わりに他の部位の神経を自家移植する。2,さほど役割を果たしていない神経ならば、断端神経腫を切除するとともに神経を短くして、柔らかい生体組織に囲まれた深い場所に神経断端を移動させるというもの。しかし、柔らかい場所に移したとしても、実際には痛みが残る場合が多い。3,切断した神経の断端を骨の中に埋込んで、痛い神経腫を骨に中に作ってしまおうという手術がある。この方法では外圧による痛みが消失するので、完璧なように見えるが、神経の先端が骨に固定されているため、実のところは神経が動いたときに引っ張られて却って痛みを生じることも分かっている。4,神経の断端近くにアルコールや熱を加えて、神経の再生力をなくしてしまうことも行われたが、結果は却って痛みが強くなることがあり、最近はほとんど行われていない。
 以上のような治療法があるが、1,を実施するにはマイクロサージャリーが必要であり、自己の他の組織を犠牲にするわけであり、それを実施しても完全に麻痺が改善するとは限らなかった。かえって、神経断端腫を新たに作ってしまうこともあった。2,以降のものは、麻痺を改善することは諦め、痛みを何とか軽減することを目的とした手術であった。

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