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「生物学的整形外科」の新しい展開(I)

岸上義弘 (岸上獣医科病院院長・大阪市獣医師会会員)

日本獣医師会雑誌 2005年 7月号 Vol.58 掲載

I はじめに

 従来からの、世に言う「獣医整形外科」においては、まず骨や関節の形状を解剖学的に元通りにすること、そして術後すぐに完全な機能を取り戻すこと、という目標を掲げていたように感ずる。それはそれで、実現できれば非常に良いことである。しかし、それらを実現するために、生体に対して生物学的に大きな侵襲を与えてしまったり、力学的に無理のある、段違いに強い固定を実施してきたと感じる。生物学的に大きな侵襲を加えると、創傷を治癒させるための細胞やサイトカインは減弱する。その結果自己治癒能力は減衰し、創傷の治癒は遅くなり弱くなる。そして力学的に無理のある固定をしてしまうと、骨の吸収などの自己恒常性の破綻という現象を招きかねない。
 筆者自身も、過去には骨折を治そうとして、大きな創を開き、大きくて頑丈なプレートを装着することに何の疑問も持たなかった。より完璧な整復のためには、なりふり構わなかった。手術後のレントゲン写真を見て自己満足に浸っていた。「なんて綺麗な整復なんだろう。」と感じていた。「手術は大成功です。」と飼い主さんに告げて得意満面だった。
 しかし多くの症例を経験しているうちに、いくつかの恐ろしい現象に遭遇した。形状は綺麗に整復したのにも関わらず、全然骨癒合が進んでいない。癒合が進まずに停止すると、いつまで経っても荷重は専ら固定器具に掛かり、金属物と骨とが緩みを発生したり、金属が疲労して破損したりするのである。また、緩みを起こさなかったプレート下の骨組織がどんどん吸収され、無くなっていくこともあった。
 それから時が経て、人医学の学会などで勉強し、自分でも実験や研究をし、判明したことは、確かに起こっているそれらの現象が術者のミスではなく、方法の欠陥による副作用であるということであった。それらの現象は、人医学会では、すでに臨床で起こっていたことであり、討論し尽くされ、動物実験でも確かめられた旧知の事実であった(1)。
 従来の獣医整形外科が「完全な形状」を追求したのには、3つの理由があると考えている。ひとつには、かつてのAOという機構の影響を大きく受けたことに起因する。現AOはPerrenらが率いており、生物学的治癒を目指しているが、かつての旧AOはMullerらが先頭に立ち、「第1期癒合」や「直接的癒合」という現在では死語となった概念を振り回していた(2)。今からさかのぼること約30年前の話である。骨折した骨片同士を圧着し、強固に固定すれば、術後翌日から歩くことができ、骨折部は仮骨を出さず直接癒合し、形状も完璧となる、と説いた。しかし現実には、癒合遅延や再骨折が頻発し、激しい討論の末に、その概念は下火となったのである。


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