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「生物学的整形外科」の新しい展開( II

岸上義弘 (岸上獣医科病院院長・大阪市獣医師会会員)

日本獣医師会雑誌 2005年 8月号 Vol.58 掲載


 (2)サイトカインが残存するかどうか。
 非開創手術で行った手術であれば、サイトカインは残存する傾向にあるが、もしも開創手術を実施し、長時間大きく開創すると、サイトカインは阻害される傾向にある。
 骨折時に生じた出血の際に形成された血腫の中に、サイトカインが多く含まれている。これをむやみに動かしたり除去してはならない。近年の人医整形外科の学会で聞いた言葉で面白いものがあった。「血腫は触ってはいけない。動かしてもいけない。見てもいけない。」とのことだった。
さらには、その手術が初めての手術か、2回目の手術なのかも、結果に大きく影響を及ぼす。手術回数を重ねるごとにサイトカインや骨折部の細胞は侵襲を受け、骨の癒合力は低下していく。骨折の手術は初回で成功させるべきである。老齢の動物では、サイトカインの幹細胞増殖が骨折治癒のキーの一つとなるため、なおさら非侵襲的な方法で治療したいところである。

 (3)血行が温存されているかどうか。
 大きく2つに分けて、骨折部の血行は骨髄内からの血行、そして筋組織から骨外膜への血行に分類される。骨髄内の血行は主に幹細胞と骨そのものの存続にかかわり、筋組織からの血行は外骨膜に栄養供給することによって仮骨を増生するという役割を持つ。つまり筋組織からの血行を、プレート法の手技(開創)(骨膜剥離)、そしてプレートそのもので遮断してしまうと、外骨膜が壊死し、仮骨が得られないという結果となりやすい。言い換えれば、「筋組織からの血行」→「外骨膜の栄養供給」→「仮骨増生」→「骨癒合」という流れは、非常に重要な骨折治療の根幹である。つまり、開創によって骨膜を剥離すること、そしてプレートによって筋と骨膜を隔てることが、大幅に骨癒合を遅らせるのである。
 骨折部の骨癒合不全と共に、健康であるはずの部位も骨吸収像が見られるときには、廃用による骨吸収と同時に、骨への栄養血管の傷害も考えておくべきである。大きいプレートによって、骨の栄養血管が傷害を受けると、急速で広範囲の骨吸収像が見られることがある。

 (4)足場があるかどうか。     
 生体内のいずれの組織が損傷を受けても、新しい組織が形成されるためには、その部位に新しい血管・新しい細胞が生育できる足場(骨折の場合は主に血腫が足場となる)が必要である。非開創手術なら、血腫の存在は確実と思われるが、もしもプレート法やワイヤー法によって開創したとすると、我々は血腫に接触し、血腫を動かし、血腫を取り去るかも知れない。骨折を治癒させるための生理学的骨癒合機序は、仮骨が生産されて、それが骨になることであるが、その足場となる血腫を除去することは、骨癒合にとって決定的な不利条件となる。血腫には、骨折を治癒していくサイトカインも含有されている。

 (5)解剖学的整復がなされているか
 従来の獣医整形外科でもっとも重要視されていた項目である。これはもちろん重要な項目であるが、「完璧でなければならない」という呪縛から大きく開創し、大きく侵襲を与えていることがないかどうか、検証すべきであろう。もし大きく侵襲を与えるなら、治癒が悪いので、完璧に整復しなければならなくなる。

 (6)物理的安定はどうか。 
 たとえ新しい血管・新しい細胞が生育できる足場が存在したとしても、その足場がマクロの動きを繰り返すと、新生血管は何度も断裂し、新しい組織は生成されないで、無血管性の瘢痕組織または軟骨組織となることがある。一旦こういう組織が骨折部に生成されると、再び骨組織に置換されることは困難となる。


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